「自己投資」という名の無駄遣い。成長した気になってお金を溶かす前に読む話

「今年こそは!」

年始に意気込んで購入したオンライン講座、最後に開いたのはいつだっただろう。ログイン画面を見るたびに、小さな罪悪感が胸をよぎる。でも、明日こそは、来週こそは——そう言い聞かせているうちに、気づけば有効期限が切れていた。

そんな経験、あなただけじゃない。

「自己投資」という言葉は、響きがいい。将来の自分のため、キャリアアップのため、成長のため。そう唱えれば、どんな出費も正当化できる魔法の呪文だ。でも、その実態を冷静に見つめると、多くの場合、それは「高額な浪費」にすぎない。

この記事では、なぜ私たちが「成長できそうなもの」にお金を払って満足してしまうのか、その正体をデータと心理学で解き明かしていく。そして、本当にリターンを回収できる投資への切り替え方を、一緒に考えてみたい。

まず、ひとつ衝撃的な数字を伝えておく。オンライン講座の完走率は、わずか5〜15%程度しかない。


「自己投資」の9割は、ただの寄付活動かもしれない

オンライン講座の「完走率」を知っているか?

数字の話をしよう。

オンラインスクール業界の調査によると、自己ペース型コースの完了率は5〜15%、世界的に有名なMOOC(大規模公開オンライン講座)でさえ3〜15%程度にとどまる。通信講座の受講経験者を対象にした別の調査では、なんと54%が受講完了前に挫折している。

つまり、講座を申し込んだ人の半数以上が、最後までたどり着けていない。

この数字を見て、どう感じるだろうか。「自分は違う」と思った人もいるかもしれない。でも、スマートフォンの中に眠る未視聴の動画、本棚で背表紙だけが日焼けしていく参考書たち。それらは、静かにこう語りかけている。「あなたもその一人だよ」と。

申し込んだ瞬間がモチベーションのピークで、あとは企業の養分になっているだけ——そんな皮肉な現実が、私たちの「自己投資」の正体かもしれない。

資格を取っても「使わない」人が半数以上

「とりあえず資格でも取っておくか」

将来への漠然とした不安を感じたとき、多くの人がこう考える。資格さえあれば安心、資格があれば転職に有利、資格があれば——。

でも、現実はどうだろう。

ある調査によると、取得した資格が「十分に活かされている」と感じている人は、わずか17.8%。「ある程度活かされている」を合わせても約半数程度で、残りの4割以上は「あまり活かされていない」「まったく活かされていない」と答えている。

さらに興味深いのは、資格スクール経験者の17.1%が5つ以上の資格を保有しているというデータだ。資格コレクターとでも呼ぶべき存在が、決して少なくない。

資格を取ること自体が目的になり、取得した瞬間に満足してしまう。そして次の資格へ。その繰り返しの中で、本当に使える知識やスキルは身についているのだろうか。

「とりあえず資格でも」という思考停止こそが、一番危ない落とし穴なのかもしれない。


なぜ私たちは「成長できそうなもの」にお金を払うと気持ちよくなるのか

脳がバグる「やってる感」の正体

参考書を買って、カフェでコーヒーを注文して、さあ勉強を始めよう——そう思った帰り道の、あの妙な高揚感を覚えているだろうか。

まだ1ページも開いていないのに、なぜか「勉強した」ような気分になる。新しいノートの真っ白なページを眺めながら、「これから頑張る自分」を想像して、少しだけ誇らしくなる。

これは、行動経済学でいう「一貫性の原理」が働いている状態だ。人は、自分が一度コミットしたこと(この場合は「自己投資をする自分」というイメージ)と一貫した行動を取りたくなる心理がある。お金を払った時点で「成長に向けて動いている自分」というセルフイメージが生まれ、それを維持したいという欲求が働く。

高級な文房具やスタイリッシュなガジェットを買うのも、同じメカニズムだ。「勉強している人っぽい自分」を演出するための、一種の自己表現消費。iPad Proを買ったのに、結局YouTube専用機になっている——そんな心当たりはないだろうか。

「やってる感」は、実際に「やる」ことの代わりにはならない。でも、脳はその違いをうまく区別できない。だから私たちは、買っただけで満足してしまう。

将来への「不安」がお財布の紐を緩める

「このままでいいのか?」

深夜、ベッドの中でふとそんな不安がよぎったことはないだろうか。周りは転職したり、資格を取ったり、なにかしら「動いている」ように見える。自分だけが取り残されているような焦燥感。

この不安こそが、財布の紐を緩める最大の要因だ。

行動経済学では「損失回避」という概念がある。人は、何かを得る喜びよりも、何かを失う苦痛のほうを強く感じる生き物だ。つまり、「学んで得をする」よりも「学ばないで将来損をする」ことへの恐怖のほうが、行動を駆り立てる。

だから私たちは、将来への「お守り」として高額セミナーを購入する。「これさえあれば大丈夫」という安心感を、お金で買おうとする。

でも、お守りは持っているだけでは効果がない。神社で買ったお守りが財布の奥で眠っているように、講座も本もセミナーも、開かなければただの「置物」だ。


あなたもやっていないか?「死に金」になる自己投資パターン

パターン1:ノウハウコレクター

積読、未視聴動画、ブックマークした「あとで読む」記事たち。

通信講座の挫折率54%という数字は、まさにこのパターンの象徴だ。「買った満足」で完結し、その先の「使う」「続ける」「身につける」というプロセスが完全に抜け落ちている。

ある人は、こう表現した。「自己投資っぽい消費は、意味付けをしないとゴミクズ化する」と。

厳しい言葉だけれど、的を射ている。本を買っただけでは知識は増えない。講座を申し込んだだけではスキルは上がらない。そこに自分なりの「なぜこれを学ぶのか」という意味付けがなければ、それはただの消費——いや、浪費だ。

パターン2:形から入る「意識高い系」消費

週末の朝、おしゃれなカフェでMacBookを開き、スタイリッシュなノートにメモを取る。SNSにアップする写真のために、少しだけ本を開いておく。

見た目は完璧な「自己投資をしている人」だ。でも、実際に身についた知識はどれほどあるだろう。

メガバンクのコラムでは、目的意識のないセミナー参加や、ガジェット・文具への散財を「悪い自己投資」の典型例として挙げている。目標が曖昧なまま交流会に参加したり、「なんとなく良さそう」で自己啓発本を衝動買いしたり。

形から入ること自体は悪くない。でも、形だけで終わってしまったら、それは投資ではなくコスプレだ。


私自身の話をしよう。

新社会人の頃、「お金の知識は必須」という空気に流されて、簿記講座を約3万円で購入した。結果は——1〜2回開いただけで放置し、有効期限切れ。試験すら受けていない。

投資として見れば「元本割れ」どころか「上場廃止」だ。

仕事で使う実践的な理由があったわけでもなく、「なんとなく」で始めたから、苦手な数字の壁を越えるモチベーションが湧いてこなかった。

もうひとつ。「家でもできる」という理想を抱いて、2.5万円のホームジム器具を買ったこともある。しかし家には誘惑が多すぎた。テレビ、ソファ、冷蔵庫。1年後、その器具は「洗濯物かけ」に変わり、最後は手数料を払って粗大ゴミへ。肉体への貢献よりも、処分費用と占有していた空間という損失のほうが大きかった。

こうして振り返ると、「自己投資」の名のもとに、いったいいくら溶かしてきたのだろう。


「浪費」を「資産」に変えるための3つのルール

では、どうすればいいのか。

自己投資そのものが悪いわけではない。問題は「やり方」だ。ここからは、浪費を本当の資産に変えるための3つのルールを共有したい。

1. 「回収プラン」がないなら1円も出すな

日経スタイルの記事にこんな教えがある。「効果を具体的に想像できない投資は慎重に」。

これを自分なりのルールに落とし込むなら、こうなる。

「この3万円の講座を受けたら、どうやって30万円にして取り返すか?」

これを具体的に書き出せないなら、まだポチるタイミングじゃない。

「なんとなく将来役に立ちそう」では弱い。「この知識を使って、半年後に副業で月3万円稼ぐ」「このスキルで転職して年収を50万円上げる」——そこまで具体的にイメージできて初めて、その出費は「投資」と呼べる。

2. 自分の「ポートフォリオ」を組め

株式投資では、リスクを分散させるために複数の銘柄に投資する「ポートフォリオ」という考え方がある。自己投資にも、同じ発想を取り入れてみてほしい。

短期で効果が出るものと、長期で効果が出るもの。スキルに関するものと、健康に関するもの。ひとりで完結するものと、人間関係を広げるもの。

飲み会だって、選び方次第では立派な自己投資になる。業界の先輩に話を聞ける場、新しい視点を得られる異業種交流。お金だけでなく、時間や体験への投資も含めて、バランスを考えてみる。

すべてを「資格」や「講座」に注ぎ込む必要はない。

3. 感情ではなく「数字」で効果を測る

「なんとなく成長した気がする」——これが一番危ない。

自己投資の効果は、できる限り数字で測るべきだ。収入がいくら上がったか。作業時間がどれだけ短縮されたか。名刺交換した人が何人いたか。

もちろん、自信がついた、視野が広がった、という定性的な効果もある。でも、それだけに頼ると「なんとなく意味があった」という曖昧な評価で終わってしまう。

測定可能な指標を持つこと。それが、自己投資を「気分」ではなく「戦略」に変える鍵だ。


そのクリック、本当に「未来の自分」のためか?

堀江貴文氏はこう言っている。「儲かる投資先は自分だ」「自己投資こそ最強」と。

これは真実だ。株や不動産と違って、自分への投資はどこかで必ず形になる。リターンの上限がない、唯一の投資先と言ってもいい。

ただし——それは「行動」が伴ったときだけの話だ。

買っただけでは何も変わらない。申し込んだだけでは成長しない。自己投資は、株と違って寝ていても勝手に価値が上がったりしない。自分の頑張り次第で、爆上がりもすれば暴落もする。それが、自己投資のシビアな現実だ。


正直に言えば、私自身、今でも自己投資の名のもとに無駄遣いをしてしまうことがある。この記事は、あなたに向けて書いているようで、実は過去の自分に向けて書いている部分も大きい。

だからこそ、強い言葉を使った。「死に金」「浪費」「上場廃止」——耳が痛いかもしれない。

でも、裏を返せばこうも言える。対策さえ講じれば、すべての自己投資が「優良株」に化ける可能性がある。

買った時点で満足するのは、もうやめよう。

使い倒して、学び倒して、血肉にして——そこまでやってこそ、本当の「自己投資家」だ。

あなたの次のクリックが、未来の自分への確かな一歩になることを願っている。

参考文献

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