
ブラック企業って、嫌いですよね。
社員を歯車のようにこき使い、休憩も与えず、安月給で働かせる。「そんな会社、潰れてしまえばいい」——そう思ったこと、一度くらいはあるんじゃないでしょうか。
僕もそうでした。
以前働いていた職場には、制度としては昼休憩がありました。でも、厨房の中で誰一人として休憩を取らない。ご飯も食べない。トイレにも行かない。新卒だった僕に、一人だけ抜け出すメンタルの強さなんてあるはずもなく、8割から9割の日は休憩なしで働き続けました。
だから、そういう会社が大嫌いなんです。
でも、ある日ふと思ったんです。
「自分は、自分の体に同じことをしていないか?」 と。
あなたの会社には、30兆人の社員がいる
ちょっと想像してみてください。
あなたの体は、ひとつの超大企業です。社員数は約30兆人。最新の研究によると、成人の体にはおよそ30〜37兆個の細胞があるとされています。しかも200種類以上の「部署」に分かれていて、心臓部門、消化器部門、免疫部門、脳神経部門……それぞれが専門の仕事を担っている。
そして、この会社は 24時間365日、一度も休業したことがありません。
心臓は止まらない。呼吸も止まらない。体温を維持し、免疫は常に監視を続け、傷があれば修復班が走り回る。起きていても寝ていても、エネルギーの供給、老廃物の処理、損傷の修復——誰かが必ず働いています。
工場のラインが24時間稼働していて、シフトだけが入れ替わっていく。そんなイメージが近いかもしれません。
この巨大企業の「社長」が、あなたです。
何を食べるか、いつ寝るか、どれだけ動くか。すべての経営判断は、あなたの手に委ねられています。

夜勤明けの社員に、深夜残業を命じていませんか
さて、ここで質問です。
あなたは昨夜、何時に夕食を食べましたか?
僕自身の話をすると、以前は食事の「時間」がひどいものでした。夜遅く、寝る直前に夜食を食べる。社長である自分は寝るために帰宅し、意識をオフにする。でも、残された細胞や臓器たちは、その直前に放り込まれた食べ物を分解するために「残業」を強いられるわけです。
オフィスの電気を消された暗闘の中で、消化吸収という重労働をやらされる。
研究によると、就寝3時間以内の飲食は消化のために血流や代謝、体温が上がり、睡眠の質を下げることがわかっています。さらに、18時の夕食と比較して22時の遅い夕食では、夜間の血糖値が高くなり、脂肪の燃焼も低下する。ストレスホルモンであるコルチゾールまで上昇するというデータもあります。
本来は消灯時間なのに、「今日も今から大口案件ね」と通達される消化器官部署。
朝起きて「胃がもたれている」「寝起きが最悪」と感じるなら、それはあなたの社員たちが徹夜で作業してくれた証拠なんです。

夜のオフィスでは、大切な仕事が行われている
「寝ている間は何もしていない」と思っていませんか?
実は、夜のオフィス(あなたの体)では、昼間にはできない重要な業務が行われています。
深いノンレム睡眠中には、成長ホルモンが集中的に分泌されます。その量は、一日の7〜8割にも及ぶとされていて、筋肉や骨、内臓の修復・再生を促しています。いわば、ビルのメンテナンス作業です。
免疫部門も夜勤で活性化し、サイトカインや抗体を作って、翌日の感染や炎症に備えます。
そして脳では、「グリンパ系」と呼ばれる排水システムが稼働します。脳脊髄液が流れて、日中に溜まった老廃物を洗い流す。マウスの実験では、睡眠中に脳の隙間が約60%も広がり、この清掃作業が効率よく進むことが報告されています。
夜の社内では、ビル清掃、設備メンテ、サーバーのバックアップが黙々と行われている。
この大切な時間を削ってしまったら、どうなるか。
翌日のオフィスには、片付いていないゴミと、疲弊した社員が残されることになります。

予算削減は、一番コストのかかる部署から始まる
食事は、社員たちへの「報酬」です。
でも、その報酬が足りなかったら?
栄養不足の状態では、体は「予算削減」を始めます。そして真っ先にリストラされるのは、一番コストのかかる部署——筋肉や臓器です。
エネルギーが足りないとき、体は筋肉や臓器のタンパク質を分解してエネルギー源に回します。筋力や持久力が落ちるだけでなく、心肺機能にまで影響が出る。研究では、タンパク質やエネルギーの不足が、歩く速さや椅子から立ち上がる力といった身体パフォーマンスの低下と強く関連することが示されています。
さらに、栄養不足は神経伝達物質の材料不足やホルモンバランスの乱れにもつながり、疲労感、集中力の低下、気分の落ち込みといったメンタル面にも影響します。
予算が足りない会社では、現場の生産性が真っ先に落ちる。
あなたの会社の「予算編成」は、大丈夫でしょうか。

取引先が撤退を始めるとき
もうひとつ、見落とされがちな存在があります。
腸内細菌——彼らは社員ではありません。いわば、あなたの会社と持ちつ持たれつの関係にある取引先です。
彼らは食事からの栄養、特に食物繊維や発酵食品をエサにして、短鎖脂肪酸という有益な物質を作り出しています。これが炎症を抑え、腸のバリア機能を守り、さらには「腸–脳軸」を通じてメンタルにまで影響を与える。
あなたの会社が良い環境を提供すれば、取引先も良い仕事を返してくれる。でも逆に、食事が乱れ、睡眠が足りず、運動もしない日々が続くと、腸内細菌は乱れ始めます。「ディスバイオーシス」と呼ばれる状態です。
取引先から見れば、「御社とは仕事がしづらくなってきました」という状態。
持ちつ持たれつの関係が崩れれば、双方のパフォーマンスが落ちる。
そしてこの乱れは、気分の落ち込みや不安といったメンタル不調を悪化させることが、研究で明らかになっています。腸と脳は双方向でつながっていて、腸が荒れれば心も荒れる。
大切な取引先との関係が悪化したら、会社全体の業績も落ちる。
そんなイメージです。

体内働き方改革のすすめ
ここまで読んで、「自分、けっこうブラックかも……」と思った人もいるかもしれません。
大丈夫です。会社と違って、あなたの体は今日から改革を始められます。
研究によると、睡眠を1時間増やす、果物や野菜を1サーブ増やす、運動日数を週1日増やす——そんな小さな変化でも、心理的ストレスの低下と関連することがわかっています。
残業を減らす(睡眠時間を確保する)。
賃上げと福利厚生を充実させる(栄養バランスを整え、腸内環境を守る)。
職場環境を改善する(適度な運動、ストレスケア)。
これが「体内働き方改革」です。
運動が不安や抑うつを減らし、睡眠の質や自己肯定感を高めることは、数多くの研究で示されています。食事、運動、睡眠、ストレス対処をまとめて改善するプログラムは、うつや不安、不眠の症状を軽減し、生活の質を向上させる効果があると報告されています。
医学や精神医学の専門家たちも、生活習慣の改善をメンタルヘルス支援の重要な柱として位置づけています。

僕自身の話
正直に言うと、僕も過去には自分をブラック企業のように扱っていました。
小・中・高校生の頃、チョコレートを普通の4倍くらい食べていました。菓子パンばかり食べて、栄養という概念がなかった。寝る直前に大量に食べることもありました。専門学生になってからも、バイトが終わるのが遅くて、夜の11時や12時にラーメンをかき込んでいました。
でも、食生活を整えた今のほうが、断然体が軽い。メンタルも安定しています。
これは、体が働きやすい環境になって、精一杯働いてくれている細胞たちが喜んでいる証拠なんじゃないかな、と個人的には思っています。

あなたの経営方針を、見直してみてください
あなたという超大企業の中で、30兆人の社員たちが今日もせっせと働いています。
心臓を動かし、呼吸を整え、食べ物を消化し、傷を治し、外敵から守り、記憶を整理し、感情を調整している。24時間365日、一度も休むことなく。
彼らは辞表を出せません。ストライキを起こすこともできません。ただ黙々と、あなたのために働き続けています。
そんな社員たちに、適切な報酬を与えていますか?
十分な休息を取らせていますか?
働きやすい環境を整えていますか?
もし生活習慣が乱れているなら、あなたは自分が忌み嫌っている「ブラック企業の社長」と、同じことをしてしまっているかもしれません。
セルフ人体ブラック企業は、誰かに迷惑をかけることではないかもしれない。でも、改善すれば自分のパフォーマンスに如実に影響が出ます。会社で言えば「業績が回復する」ようなものです。
大多数の人は、ホワイトな職場で働きたいと思っているはずです。
ならば、自分という会社を過酷な労働環境にしていないか——
一度、あなた自身の「経営方針」を、振り返ってみてください。




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